教員【異動】飛ばされやすいのは だれ?
3月上旬といえば、学校の先生にとって「異動の申し渡し」が思いうかぶことでしょう。
教職員は、どの学校、あるいは、どの公署に飛ばされるか分からないものです。
今回は、そんな教職員の人事異動についてお伝えします。
教職員の異動の基本
ここでは、学校に勤める先生や事務職員、用務員のかたを総じて、「教職員」とよんでいます。
そうした教職員以外で、直接 教職に携わっていないかたにとっては、教職員の異動が どのようなものか 想像しにくいと思います。
ということで、一般的な企業と比べながら、話を進めていきましょう。
一般的な企業の場合は、「会社」という枠の中に、社員として採用されます。
採用された会社が、複数か所に分かれて存在する場合、本社勤務なのか、支社勤務なのかも変わってきます。
「会社」という枠組みの次には、部署や部門という、小さい組織があります。
販売部門や製造部門がこれにあたります。
もちろん、入社した社員は、そうした部署・部門に所属し、仕事を行います。
組織の構成自体は、学校も企業と同じです。
ただ、「学校」という枠が「会社」に相当するのでは ありません。
高校や特別支援学校の教職員は、都道府県ごとで採用されます。
小学校や中学校の教職員は、それぞれの地方自治体(市町村など)で採用されます。
そのため、私立学校でない限り、それぞれの「自治体」が「会社」に相当する大きな枠になるのです。
(私立学校は、企業としての側面が強く、大きな枠組みが「会社」に相当すると考えられます。)
ということは、「自治体」に次いで、「学校」が大きい組織になりますね。
さらに、ひとつの学校の中でも、「教科」や「学年」、「分掌」という小さな集団が存在します。
「分掌」でいうと、総務部、教務部、生徒指導部、特別活動部、進路指導部などがあります。
そして、この小さな集団の間でも異動があり、年度によって、毎回 配属が変わることもあります。
企業であれば、部署・部門間の異動などがあります。
部署が変わっても、勤務地は変わらないことがあります。
海外に支店をもつ企業であれば、海外勤務になることもあります。
もちろん、異動に伴って、違う場所に引っ越すことは珍しくありません。
これと同じように、教職員であれば、基本的に 学校間での異動があります。
ただし、家から遠い学校に異動することも、ふつうにあります。
知り合いの中には、同じ自治体なのに、家からおよそ100kmも離れた学校に赴任した人がいます。
わたしだったら、お断りしそうですが、
「異動を断ることは、辞めるという意思表示と同じ」
だと聞いたことがあります。
とくに、高校や特別支援学校の教職員は、都道府県採用です。
だからこそ、東西あるいは、南北に長い都道府県ほど、遠くに飛ばされる確率が高まります。
とくに、多くの人は、へき地に飛ばされるのがイヤだ言います。
へき地というのは、島だったり、山奥だったりするところです。
いわば、地域外から人が入ってくることの少ない場所です。
こうした場所には、希望して赴任する場合と、希望せずに赴任させられる場合とがあります。
へき地勤務を希望していなくても、戸籍上、独身(配偶者なし)になっている場合、飛ばされる候補に挙がりやすいと考えられます。
しかし、飛ばすにも 限度があるとは思いませんか?
採用された都道府県外への異動
わたしが児童生徒だった頃は、3月下旬の新聞をながめて、どの先生が異動されるのか よくチェックしたものです。
そのとき、思ったことがあります。
「〇〇先生は、都道府県外に異動なの!?ありえない!」
ある地方自治体では、企業でも行われる 人事交流が行われていました。
早い話が、自治体によっては、家から1000kmも離れた場所に 赴任する可能性があるということです。
本当であれば、都道府県外に異動することは、珍しく、誇らしいことなのかもしれません。
しかし、人事交流に選ばれたことがある先生に、話を聞いたところ、
「向こうの生活は大変で、胃に穴が開きそうだったよ」
と言っていました。
その先生は、1000kmも離れた土地に、家族全員で引っ越したそうです。
子どもが小学生だったため、転学させざるを得なかったと言っていました。
そして、その土地で数年の教員生活をし、ようやく慣れたと思った頃に、採用された都道府県に戻されたそうです。
また小学生の子どもは、元の学校に転学したということでした。
さらに加えて、引っ越しの援助は、微々たるものだったそうです。
この話を聞く限りでは、人事交流で選ばれてしまったら、損することになりませんか?
金銭面もそうですが、家族全員の精神面も、子どものための環境も心配です。
こうした無理のある人事交流は、本当にすべきことなのでしょうか。
12月に希望調査が行われる
ここまで書いてきたことは、教員の異動の基本と例外についてです。
そうした異動先が決まる前に、次のような内容を調査されます。
・異動したいか、したくないか
・異動するのであれば、候補はどこか
・退職、親族の介護、結婚、出産・育児、病気の治療・手術など 来年度の予定はあるか
・近親者が同自治体で教職員をしている場合は、どの学校に勤務しているか
この希望調査書類の提出は、多くが12月です。
ご存知ない方も多いのですが、これは、あくまで希望調査です。
希望に沿ってもらえないことも ふつうにあります。
実際に、3月になってみないと、希望した内容が通っているかは分かりません。
もし、重要な理由があって、異動先の候補を書いておくなら、そこを選んだ理由をはっきり書いておきましょう。
とくに理由を書かない場合、勤続年数などによっては、異動の候補になりやすいです。
飛ばされにくい人は だれ?
もっとも飛ばされにくいのは、幼い子どもがいる母親教員や、親の介護をしている教員だと考えられます。
なぜか、育休や介護休暇をとるかたは、女性が多いです。
そのため、異動しにくい傾向があるのは、女性になっています。
多くの母親教員の場合、産休が明けてから、仕事と育児を両立させなければなりません。
家の近くに、自分の母親や父親(子どもからすると、祖父母)が住んでいれば、まだ気楽に両立できます。
何と言っても、教員という仕事は、業務が増える一方で 減らない職業です。
次から次へと仕事が出てきます。
わたしの経験からすると、その終わらない仕事の中で、子育てを一人で行うのは無謀なことです。
とても大変で、いつ倒れてもおかしくありません。
だから、母親教員に対する せめてもの配慮ということで、異動の希望調査は通りやすいほうだと言えます。
つまり、家から離れたところへは 飛ばされにくいということが言えるでしょう。
個人的に、差別的だと感じること
「学校」は、内側から見ても、はたから見ても、時代遅れの閉鎖的な世界だと言えます。
一昔前と比べて、ずいぶん緩和された気がしますが、働くのは男性、家事や家族の面倒を見るのは女性というように、明確な差がまだあるように感じます。
子どもには、男女平等を教えているにもかかわらず・・・。
とくに、育児に対しては、まだまだ配慮が足りていないように感じます。
産休に加えて、正規採用の教職員であれば、申請することで、出産後3年間は育児休業(育休)が取れます。
わたしの経験からすると、教職員の多くは、自分の子どもが1歳になってから職場に復帰します。
なぜなら、育休中はお給料がもらえず、金銭的につらいからです。
(ただし、申請すれば、さまざまな機関・組織から支給されるお金もあります。)
同じ学校に勤務していた先輩教員や、違う校種に勤務していた同期から、次の話を聞きました。
上司である管理職から、
「2人目の子どもがほしいなら、産休・育休は、連続して取ってね」
と言われたそうです。
つまり、産休を1年間だけ取得する場合、1人目を出産して、およそ1年後に、また妊娠しなければならないということです。
先輩教員も、同期の教員も、
「体力的にも、金銭的にも、精神的にも ツラいわ」
と言っていました。
早い話が、好きなタイミングで、出産・子育てをさせてもらえないことがあるということです。
これに加えて、職場復帰してから「異動」が待っていることもあります。
育児に追われながら、新たな学校に慣れなければなりません。
大きなストレスを抱えることになります。
そうしたことを踏まえると、異動しにくかったとしても、何らかの形で、不利益をこうむることになるのではないでしょうか。
もし、利益よりも不利益の方が大きいのであれば、「異動」を限定的なものにすべきなのではないでしょうか。
わたしは、そう考えます。
個人的に、あきれていることが もうひとつあります。
これも、性差別に関することです。
わたしの知り合いの男性教諭は、
「男は、バリバリ仕事をこなさなければならない」
と考えています。
その延長で、
「男は、どこに飛ばされても仕方ないよね。」
と言っていました。
これは、差別ではないのでしょうか。
公務員だから許されるのでしょうか。
そう考えさせる環境が悪く、改善しようとは思わないのでしょうか。
わたしからすると、学校という職場環境が とても恐ろしく感じられます。
ただし、職務上であれば、上司の命令に従う義務があることは事実です。
地方公務員法 32条
職員は、その職務を遂行するに当つて、 ― 中略 ― 上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。
つまり、
「あなたは、来年度、〇〇学校に異動です。」
という話に対して、返答はひとつしかないということです。
「はい。わかりました。」
最後に
めったにありませんが、たとえ飛ばされたとしても、理不尽な内容であれば、その旨を訴えて1年で異動したという例があります。
たとえば、わたしの知り合いに、高校教諭として採用されたのに、初任で中学校に赴任させられたという教員がいます。
初任の1年間は、おとなしく 中学校に勤務していました。
しかし、異動希望調査で「これは不当だ」という申し出をして、翌年度からは高校で勤務させてもらえたそうです。
毎日、膨大な量の仕事をこなす先生方には、頭が上がりません。
これに加えて、異動があっても動じない先生方は、高い対応力をおもちだと分かります。
まずは、そうした教員のみなさんが 幸せに生活できる社会になるよう 心から願っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。