糖質制限で、はやく老ける!?
「糖質制限ダイエットをすると、老化が早まってしまう」
テレビ番組や書籍で、この話がとり上げられました。そのこともあり、この話をご存知のかたが増えてきたように思います。
しかし、今回、この話にストップをかけます。
わたしのような理系の人間からすると、実験というのは、「結果」だけではなく、「全体」をつかまなければならないというのは当たり前のことです。でなければ、より正解に近い考察は得られません。
世間をさわがせている、この糖質制限と老化の関係についても、実験「全体」を見ていきましょう。
実験方法
今回の実験を行ったのは、東北大学大学院・農学研究科の都築毅准教授(農学博士)らのグループです。
実験に使われた動物
生体実験にヒトを使うことは、倫理的な問題があります。
そのため、一般的に、ほかの動物(実験動物)で生体実験を行います。
今回の実験では、40匹のマウスが使われました。
このマウスを2グループ(20匹ずつ)にわけ、それぞれを、食事制限するグループ、制限しないグループに区別して行われました。
そして、食事制限しながらマウスを生育させていき、老化現象が見られるか、見た目や寿命、さらに、学習機能が調べられました。
学習機能を調べる実験では、明るい部屋にマウスを入れておき、暗い部屋に移動したときに、電気ショックを与えるという方法がとられました。
暗い部屋に移動したマウスに、電気ショックを受けることを学習させ、再度、暗い部屋に移動したのは何秒後だったかが調べられました。
再度、移動するのに時間がかかるほど、マウスは電気ショックを受けることを学習していた と言えます。
食事の違い(条件設定)
- 食事を制限したグループ
与える食事のうち、炭水化物を脂質とタンパク質に置きかえた食事「糖質制限食」を与えた。 - 食事を制限しなかったグループ
日本食(糖質・脂質・タンパク質のバランスがいい食事)に近い「通常食」を与えた。
実験結果
見た目・寿命
48週齢のマウスで比べられました。
糖質制限の食事を与えられ続けたマウスは、皮膚や外見に老化現象が見られました。また、寿命も短くなっていました。
学習機能
54週齢(人間の70代後半あたり)のマウスで調べられました。
すると、「通常食」を与えられていたマウスは、電気ショックを与えられてから、平均200秒ほど明るい部屋にとどまっていました。
これに対し、「糖質制限食」のマウスは130~150秒程度しか明るい部屋にとどまりませんでした。
実験の考察
以上の実験結果から、「糖質制限食」のマウスは、老化が進み、学習機能が低下することもわかりました。
つまり、マウスにおいては、糖質制限によって老化が進みやすくなることが示唆されたのです。
実験の「全体」をみる
ここまで実験を説明してきてあれなんですが・・・
この実験で明らかになったのは、あくまでも、マウスの糖質制限と老化の関係についてだけです。
わたしたちヒトについては、この関係がまったく示されていないことにお気づきですか?
「え?マウスもヒトも動物でしょ?何が違うの?」
という声が聞こえてきそうです。
実は、マウスとヒトでは、食性(食べものの種類)が大きく違うのです。
- マウス(ネズミ類)
本来の主食は、草の種子(すなわち穀物)
→低タンパク質・低脂肪の食事 - ヒト
雑食(穀物・肉・魚介類・乳・油脂などなど)
→高タンパク質・高脂肪の食事
こんなにも大きく食べ物が違うのです。
こうであるにもかかわらず、今回の実験では、マウスに「糖質制限食」(高タンパク質・高脂肪の食事)を与えました。
この実験の目的が、ヒトの糖質制限と老化の関係を示すためのものであるとするならば、ヒトと食性が異なるマウスで実験すること自体が、おかしいと言わざるをえません。
ヒトが行うべき老化対策
わたしたちが行うべき対策は、糖質を制限することではありません。
自分が1日にどのくらい活動し、どのくらいエネルギーを消費するのか知ったうえで、「意味のあるエネルギー源」を過不足なくとることです。
すなわち、「糖質の量を調節すること」です。
人によっては、糖質を多くとり過ぎている場合があります。その人たちだけが糖質制限(糖質の量を減らすこと)をすればいいだけです。痩せ型の人が、さらに無理して糖質を制限する必要はないのです。
大事なことは、「糖質の量を自分で調節すること」です。
こんな「糖質制限ブームだ!」なんていう言葉に、惑わされてはいけません。